夕方、あいにくの曇り空のなか、
テングザルを見た。
5匹ほどの群れと、
その真ん中にたたずむ鼻の長いリーダー。
彼らが持っている木の実は、
僕から見ても、なんだか美味しそうだ。
陽が落ちる頃、
林の向こうの高い木の上に1匹のテングザルが現れ、
木に腰をかけようとしていた。
なんせ薄暗かったので、
ほとんどの写真はうまく撮影できなかった。
撮影時間は数秒程度。
僕たちが撮影していた森は、
原生林だけではなく人の手を入れた二次林が点在していて、そんな中でボルネオ島固有種であるテングザルが生息するというのは大変素晴らしいことだと、ガイドの方は言っていた。
ボルネオ島の固有種、テングザル。
その奇跡を味わった。
数日後。
洞窟の中で沢山のコウモリを眺めた後、
僕たち学生は、
僕たちが泊まっていたロッジが一望できる
ちょっとした山のてっぺんに来ていた。
一週間近く毎日ヒルに噛まれながら、
とにかく沢山の生き物を観察していたが、
今日は打って変わり山に登っている。
あたりを見回すと、
僕たちが毎日カヌーで観察をしていた川が見えた。
湖がロッジの真横に位置している。
僕は湖の小ささに驚いた。
その湖は夜になると、
川から沢山のワニがやってきて寝るような
大きな大きな湖だったと思うのだが、
山の上から見ると、思ったよりも大きくない。
囲むジャングルが湖よりもっと大きいので、
湖が可愛く見えるのだろうか。
山から十数メートル離れた先に、
山と並びそうなほど高い背丈の木が数本生えていて、
木の枝には何やら黒い猛禽類が鎮座している。
コウモリダカだ。
コウモリダカは、
文字通りコウモリを主食にしているタカの仲間で、
この山周りに生えている高い木の枝に、
ちらほら観ることができた。
キナバタンガン川の中腹でも偶に観察していたが、
とても警戒心が強く
カメラに収めることができなかったのだ。
少し遠いけど撮影しておこうとカメラを構えると、なんだか背景に電線のようなものが入っていることに気がついた。
遠景を眺めるとその先には鉄塔が数本立っていて、
鉄塔のさらに先には、
とても単一的な森
(パーム畑と呼ばれている)が広がっている。
コウモリダカは僕がカメラを構えているあいだ、
ずっとこちらを見ている。
僕はこの電線は、あえて入れておこうと思った。
「この森をなんとかしてくれないか」
そんな訴えを眼差しに感じ、
僕はただ、身が引き締まる思いだ。
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