カニクイザルたちの甲高い鳴き声。
彼らの敵意は、森を横切る黒い影、
マレーウオミミズクに向けられていた。
一瞬の出来事だった。
薄暗くなり始めた木々の隙間から
何かがぬっと出てきたと思えば、
猿たちは散り散りになってその真ん中に二つ、
黄色い眼だけが目立つように並んでいたのだ。
![マレーウオミミズク(Ketupa ketupu) ボルネオ島にて](https://i0.wp.com/neopic.net/wp-content/uploads/2023/07/11マレーウオミミズク-のコピー.jpg?resize=685%2C513&ssl=1)
その一連の出来事に先頭のガイド、
ファイジャンのカヌーを漕ぐ手つきも変わった。
真っ直ぐフクロウだけを見つめると
彼はちいさな声で、
「子供を襲ったんだろう」と言った。
エンジンを止める頃には
一連の流れも嘘のように静まり、
掻き分けるオールの水の音が目立つくらいだ。
フクロウは背中を向け、その模様はまるで森に化けているように見える。
フクロウは、ただ立ち尽くすだけだった。
それでもなお、遠くに見える猿たちの視線は、
冷たいものだった。
そしてカニクイザルの姿が見えなくなる頃
フクロウは僕たちから視線を外した。
並んでいた二つの眼が見えなくなったことによって、
フクロウは完全に森と同化した。
僕たちのおかげで、
狩りに失敗したとでも思っているのかもしれない。
じき夜になる。
あたりは、どんどん暗くなっていく。
今から、森のロッジに帰るまでに、
どれだけの生き物を見ることができるんだろう?
![上空を飛ぶシロハラウミワシ(Haliaeetus leucogaster)](https://i0.wp.com/neopic.net/wp-content/uploads/2023/07/13シロハラウミワシ-のコピー.jpg?resize=689%2C918&ssl=1)
船を漕ぐと、
木々のてっぺんからシロハラウミワシが飛び出し、
遠くへ飛んでいくのが見えた。
再び鳴るカヌーのエンジン音とともに、
僕の心も高まった。
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