2018年、8月23日、朝6時。天気、晴れ。
コモドドラゴンは、和名でいうコモドオオトカゲ。
全長3メートルを超える、世界最大のトカゲだ。
僕はコモドドラゴンを観に、
インドネシアまで来ている。
正直英語もインドネシア語もからっきしわからず、現地ではWi-Fiに頼り、1日が終わる、そんな日もあった。観光会社に任せれば、簡単に彼らには会いにいけるのだが、お金はあまりなかったし、限界旅行が一度してみたかった。この旅は、自分に正直に生きるための旅でもある。
今回、僕は大学の夏休みを利用して、他大学の友達、よね君と二人で、インドネシアを船で渡る計画を立てた。彼は大変熱心な写真家志望のイケメンで、僕は彼の魅力がなんなのかを、この旅を通して探ってみようと考えたのである。180センチの塩顔長身が、「ラマレラ村の鯨漁を撮影したいんだが…」と語り出したのを即レスでOKし、一ヶ月後には空港で二人。おもろい。
正直僕は、生き物の事以外、何にも知らない。
カメラをテープでぐるぐる巻きにしているのをみて、僕は「随分ボロボロのカメラだね」と。
彼は「こうするとカメラが盗まれにくくなるんよ。あんまり綺麗なカメラは持ち歩くもんじゃない。」その言葉が今、船に揺られながらインドネシア人にジロジロと見られる僕の、身に染みている。そう聞くと怖いが、インドネシア人は、みんな話すといい人だ。身長も僕とそんなに変わらないから、万が一喧嘩になってもなんとか勝てると思う。(これは冗談)
僕は、大学に通うずっと前から、生き物に関する本を読み漁ることが日課だった。
学者のウォレスがやっていた、生き物の旅や、ファーブルの昆虫記なんかは、僕の生涯を形作っていると言っても過言ではない。ダーウィンだって、僕にとっては偉大な英雄。
そんな憧れたちもきっと一眼見たいだろう、コモドオオトカゲに僕は会いにいくのだ。朝も夜もソワソワと落ち着かなかった。初めて現地で一人で行動するから、その緊張もあっただろう。
友達とは離れ、フローレス島の港からは、別行動。5日ほどかけてバリ島からフローレス島に渡った僕たちは、お互いの無事を祈りながら一旦お別れした。
すぐに島に向かうつもりが、
次の日にトコジラミが原因の発熱?熱中症なのか?でうなされ、
コモドの島に向かう今日、僕は21歳になった。
8月23日の誕生日に、
船の上でこの日記を書いている。
偶然を祝したい。
「学者になるつもりはないの?」
旅の最中、バスの中で友達に聞かれた言葉に、
僕はとりあえず「家は金がないからなあ」なんて答えたけど、その後に僕は「実際に目で見ることが、一番楽しいことだって気づいてしまったから、写真をやってる。」と付け足した。
正直、僕は机の前に座っているのがうんざりだっただけなのだ。
というか、昔からじっとしていることが苦手なコドモだった。
僕は休み時間終了のチャイムに気づかず、小学校のグラウンドの隅でダンゴムシを探すような、そんな少年。素直ではあったが、不器用で、社会で生きるには少々難ありだ。
今でも、メールをうっていたら、バスに乗り遅れたりする。
目の前のことに夢中になると、すぐに別のことが疎かになるのだ。
当時はこんなゴミのような人間が、この世界に生きていてはいけないと思ったこともあった。
高校生の頃は、飼っていたカエルが死んだ事で、「僕のせいだ」と自分を責めたこともあって、それ以来、動物を飼うことはやめた。それに、今ペットとして目の前で生きている生き物が、野生を、自然を満喫していないと思うと、どうしても悲しさが拭えなかった。高校の写真部で、写真を始めたことをきっかけに、小さな頃から好きだった「自然にふれること」と向き合おうと思った。昆虫写真家の海野和男さんの本に出会って、自然や生き物の魅力を伝えられる仕事がこの世界にあるとわかったことが、僕にとっての自信になった。
できることが沢山ある人は、人生に選択肢があると思う。
僕はそこまで多くないけど、これでいい。沢山道があると、道に迷う。写真に運命を感じた。
2018年8月23日 12時ごろ
お昼休みだ。コモド島よりもコモドオオトカゲの数が多いという、リンチャ島にもいくことになった。コモド島のコモドオオトカゲは、みんな寝ていた。真昼は暑いからあまり動かないそうだ。フローレス島の沿岸部も乾季だからか、カラッとした暑さ。コモド島も、リンチャ島も、下草があまり生えてない。バリ島のジメジメした気候がもはや懐かしい。
2018年8月23日15時ごろ
こんなにかわいいものなのか。と撮影しながら思った。
正直イッテQの「イモトが引きずる肉をコモドドラゴンが追いかけている映像」も見たが、それとは想像がかけ離れている。どちらも本来の姿なんだろうが、テレビの追い求める彼らと、本当の彼らには、大きな乖離があるのかもしれない。
(2022追記:コモドオオトカゲは残念ながら僕の観たいシーン、「オス同士の相撲」は、見せてはくれなかった。オス同士でバトルを繰り広げるのは、生活のほんの一部。一般的には、6月の雨季の時期に限られる行動と聞いた。)
コモドオオトカゲは、素敵な二面性を持つ生き物だ。獲物を追いかける獰猛さもあるのだろうし、寝ている姿はなんとも愛おしい。わかりやすくいうなら、哺乳類でいうライオンのような。
自然は、いつも僕の想像通りには姿形を見せてはくれない。
それは当たり前のことかもしれないが、見識のせまい僕にとっては、毎回はっとすることばかりで楽しいのだ。何よりも、それを目の前で確かめることができる時代が、本当に最高だ。
僕は、小さな生き物も、大きな生き物も、自分の目でなんでも確かめたい。
常識よりずっと大切なものを、彼らから学びたい。
僕は常識人にはなれないかもしれないが、彼らのように生きることはできるかもしれない。
コメント